今回は、株式投資で「ボロ株(超低位株)」や「低位株」を利用した節税方法の話です。
税金の計算では、1株当たりの単価を計算するときに端数切上げをするルールがあります。
これを使うと1円で買った株の取得価額が「2円」になるという不思議なことが起こり、結果、ほとんど持ち出しなしで株式売却損を出すことができます。
・・・ただ、この方法は節税というより「租税回避行為」と考えられます。
国税庁・金融庁ともに「やりすぎはアウト」と考えているので個人的にはおすすめしません。
1円の株を買って1円で売ると?
具体例
次の場合、損益はどうなるでしょうか?
- 「1円」の日本株を10万株買う
- 購入手数料は100円
- 「1円」で10万株売る
- 売却手数料も100円
- なお、特定口座内の取引
1円で買って1円で売ってるので、売買手数料の分だけ負けて「200円の損」でしょうか?
実際に、税金のルールをもとに計算してみましょう。
(1) 購入時の計算
- 1円で10万株買う:10万円①
- 購入手数料:100円②
- 取得価額:①+②=100,100円
- 1株当たりの平均取得価額:100,100円÷10万株=1.001円⇒「2円」
- 端数調整後の取得価額:200,000円
はい、変なことが起こりましたね。
税金計算では
「平均取得価額に1円未満の端数があれば切り上げる」
というルールがあります(租税特別措置法関係通達37の10・37の11共-14「1単位当たりの取得価額の端数処理」)。
もし手数料「無料」で売買していれば、平均取得価額は「1円」で端数は発生しません。
一方、今回のように売買手数料を加えると端数(1.001円)が発生し、端数切上げで「2円」になります。
(2) 売却時の計算
- 1円で10万株売る:10万円①
- 売却手数料:100円②
- 入金:①-②=99,900円③
- 端数調整後の取得価額:200,000円④
- 株式売却損:③-④=△100,100円
1円で買って1円で売ったのに、計算上、「2円」で買って1円で売ったことになって株式売却損が発生しました。
ちなみに資金的には100,100円を支出して、99,900円が入金されたので、200円のマイナスだけですみます。
本来なら、株式売却損も200円だけになるはずですが、税金計算のルールによって、このようなおかしな結果になります。
- 税金計算上:株式売却損 100,100円
- 手取り計算:200円のマイナス
※計算例は下記の記事を参考にしました。
⇒青山綜合会計事務所「株式を売買する際の取得費」
参考:楽天証券
楽天証券「【特定口座】小数点株価を考慮した実現損益の表示に対応」では、この税金の計算ルールを反映した画面表示について解説しているページがあります。

- 左の「税法上の損益」:円未満の端数切上げをした場合の計算
- 右の「実際の損益」:実際にもらえる金額の計算
楽天証券の例でも
税法上の損益:△1,786円
実際にもらえる金額:4,428円
と一致していません。
この節税方法の問題点
この方法については次の2つの問題があります。
(1) 国税庁は認めていない
ここまで説明したように、「200円のキャッシュアウト」で「100,100円の売却損」が取れる異常な取引(課税上弊害がある)です。
2016年(平成28年)6月28日に出た国税庁の通達の説明では、これに関して次のように書いています。
ところで、この1円未満の端数処理の取扱いを利用し、実体のない多額の譲渡損失を計上するケースには、これまでも本項による1円未満の端数処理は認めてこなかったところであるが、本項の端数処理の取扱いが原則的なものであることを明確化し、上記のような課税上弊害がある場合においては、本項の取扱いによる端数処理を行うことなく、本来の取得価額に基づき所得計算を行うことを明らかにした。
出典:国税庁「【PDF注意】資産課税課情報第15号平成28年6月28日」
もともとの通達は、1株(1単位)当たりの金額に1円未満の端数があるときは、「原則として、その端数を切り上げるものとする。」というものです。
その解説として、実体のない多額の譲渡損失を計上するなら端数切上げをせずに計算するよ、と言っています。
- 原則:端数切上げ
- 課税上弊害がある場合:端数処理なし
「通達」自体が「法律の解釈」で、その解釈の説明文に書いてあるので法的拘束力は持ちません(税務署の調査官は拘束)。
ただし、国税庁のスタンスは、これを読む限りでは「認めていない」ととれます。
なお、同じ趣旨説明の中で問題点が指摘されている次の方法もあります。
関連>>【注意】外国株式や外貨建てMMFを利用した節税方法に対する国税庁の認識とリスク
(2) 金融庁が課徴金も
もう1つが金融庁のスタンスです。
この節税方法は「1円で買って1円で売る」ように「同額」が前提です。
株価を変動させたくないので、信用取引※と組み合わせてクロス取引で株価を固定します。
※実際には信用取引は「空売り価格規制(51単元以上)」がありますが…。
しかし、ボロ株・低位株という単価が極端に低いので、出来高もおかしなことになりがちです。
この通達が出る前の2017年(平成25年)4月17日には、やりすぎて金融庁から相場操縦で課徴金を課された人がいます。
参考:金融庁「株式会社岐阜銀行株式に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の決定について」
ちなみに本人は
「相場操縦が目的ではなく、節税目的やポジション調整のためにやった」
と主張したようですが、金融庁はアウトにしました。
最後に
この節税方法は、ボロ株(超低位株)や低位株を買うと端数切上げ効果が高く出るため、株式売却損が多く出ます。
あるいは、同じ値段で売買をするので「同値(どうち)撤退」と関連して説明されることもあります。
例えば「低位株 節税」や「同値撤退 節税」といったキーワードで検索すると、このような方法を紹介しているものがあります。
参考:ひげづら株ブログ「株の同値撤退を節税と売買目線でまとめ!これで救われる!」
※上記のブログでは「記事中で紹介した節税策は悪い例として述べたものですので決してマネしないようにお願いします。」というスタンスです。
参考:FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記「低位株の端数切り上げによる節税とは何か」
※上記のブログも「ただし、ルールの穴をつく方法であり、推奨されるものではないでしょう。実験としてやってみましたが、金額的にも、これを繰り返して節税を狙うものではないなとも思いました。」というスタンスです。
今回の節税方法は、国税庁や金融庁のスタンスからしても、個人的にはおすすめできません。
関連>>【注意】外国株式や外貨建てMMFを利用した節税方法に対する国税庁の認識とリスク