個人事業主がマイクロ法人を設立するときにポイントになるのが自分(社長)の「役員報酬」です。
「役員報酬をいくらにするか?」
は誰もが一度は悩むところでしょう。
マイクロ法人を社会保険料の適正化で使う場合には役員報酬はできるだけ少ない方が効果的です。
すると、税金と社会保険料を考えたときの最適解は
月45,000円/年54万円
です。
<4つの視点>
- 税金がかかるか?
- 税金の天引きがあるか?
- 健康保険料が最低ラインか?
- 厚生年金保険料が最低ラインか?
で比較すると、次のようになります。
月額/円 | 税金 | 健保/円 | 天引き | 年金/円 |
45,000 | ゼロ | 5,689 | なし | 16,104 |
62,000 | 課税 | 5,689 | なし | 16,104 |
87,000 | 課税 | 8,632 | なし | 16,104 |
92,000 | 課税 | 8,632 | あり | 16,104 |
※健康保険料と厚生年金保険料は、東京都の令和4年度で、会社負担分も含めています。
月45,000円のほかにも表に出てきた月62,000円、月87,000円、月92,000円という金額も候補になります。
役員報酬について、税金と社会保険料の視点で見てみましょう。
案1:月45,000円
まず1番目の候補は「月45,000円(年54万円)」です。
これは税金がかかるかどうかのラインです。
税金の世界で個人事業主になくて、社長にあるもの、それが「給与所得控除」です。
役員報酬という給与を払うと、最低でも55万円までは税金(所得税も住民税も)がかかりません。

役員報酬を55万円ギリギリの年54万円(月45,000円)に設定しておけば、税金はかからないということになります。
案2:月62,000円
- 月45,000円は物足らない
- 給与所得控除1万円分が使い切れないのがもったいない
という人が次に考えたいのは、「月62,000円(年74万4,000円)」です。
これは健康保険料の最低ラインです。
マイクロ法人は「協会けんぽ」に加入しますが、その保険料は「都道府県別(会社の住所)」で「報酬」ごとに決まっています。
<東京都・令和4年度>

報酬については「○○円以上 △△円未満」と幅(レンジ)があり、「等級」が決まります。
最低ラインの「第1等級」とその次の「第2等級」を分けるのが「月63,000円以上」かどうかです。
ここが健康保険料の最低ラインです。
健康保険料は多くても少なくても病院での自己負担の原則3割は変わりません。
最低限は「月63,000円未満」で、月62,000円(年74万4,000円)が候補になります。
<役員報酬と健康保険料>
- 月62,000円:5,689円
- 月63,000円:6,670円
- 差:981円
※マイクロ法人の会社負担分も実質自分の負担と考えて、含めて比較しています。
案3:月87,000円
月62,000円も物足らない、という人が次に考えたいのは「月87,000円(年104万4,000円)」です。
これは所得税を天引きするかどうかのラインです。
ふつう、給料から所得税を天引きしますが、そのボーダーラインが「月88,000円以上」かどうかです。

例えば月10万円にすると、細かい金額ですが、所得税を毎月天引きして払う必要があります。
※実際には「納期の特例」を使って「年2回」まとめて払えばOKですが、忘れると面倒です。
逆に言えば、「月88,000円未満」なら源泉徴収が不要です。
そこで例えば月87,000円にすると所得税の天引きは不要で、税金を払う手間もなくなります。
案4:月92,000円
月87,000円でも物足らない、という人は「月92,000円(年110万4,000円)」という選択肢もあります。
これは厚生年金保険料の最低ラインです。
さっきと同じ協会けんぽの表ですが、実は右の方に「厚生年金保険料」の部分があります。
<東京都・令和4年度>

健康保険料は最低ラインが「月63,000円未満」ですが、厚生年金保険料は「月93,000円未満」です。
つまり、月93,000円以上になると等級がアップします。
例えば月92,000円にすると最低ラインの等級になります。
※健康保険料の方は第4等級で第1等級に比べて約3,000円アップします。
ちなみに厚生年金保険料の最低ラインの等級は、会社負担分を含んでも国民年金保険料より安いという逆転現象が起こります。
関連>>【マイクロ法人】1番低い厚生年金保険料にすると国民年金より安いのに年金が多くもらえる件
比較
4つの数字が出てきたので、メリット・デメリットを比較してみましょう。
月額/円 | 税金 | 健保/円 | 天引き | 年金/円 |
45,000 | ゼロ | 5,689 | なし | 16,104 |
62,000 | 課税 | 5,689 | なし | 16,104 |
87,000 | 課税 | 8,632 | なし | 16,104 |
92,000 | 課税 | 8,632 | あり | 16,104 |
※健康保険料と厚生年金保険料は、東京都の令和4年度で、会社負担分も含めています。
表にするとわかるように
- 税金がかからない
- 税金の天引きがない
- 健康保険料が最低ライン
- 厚生年金保険料が最低ライン
が月45,000円(年54万円)です。
そのため、マイクロ法人を考えたときの最適解と言われます。
もちろん、今後、税金と社会保険料の基準が変わればこの金額も変わります。
ちなみにこのとき、会社負担分の社会保険料は約13万円です。
合わせて67万円が会社が負担する人件費になります。
必要売上高は年80~90万円
さて、役員報酬が決まったので、必要な売上高も確認してみましょう。
売上高 年80万円
- 売上高:80万円
- 役員報酬:△54万円
- 社保(会社負担):△13万円
- 利益:+13万円
- 税金:△10万円
- 税引後利益:+3万円
利益に応じた税金(利益の約2割)と、赤字でも黒字でも必ず払う法人住民税の均等割7万円を合計するとだいたい10万くらいです。
税金を引いた後の利益(税引後利益)がプラスになるので、「売上80万円」という金額が言われます。
売上高 年90万円
・・・しかし、多くの人は法人税の申告書を自分で作るのが難しいと考えます。
そこで税理士に法人の申告を依頼(報酬例:年10万円)し、会計ソフトの利用料などその他にかかる経費も3万円みておくと
- 売上高:90万円
- 役員報酬:△54万円
- 社保(会社負担):△13万円
- 税理士報酬:△10万円
- その他経費:△3万円
- 利益:+10万円
- 税金:△9万円
- 税引後利益:+1万円
が目安と考えます。
月45,000円未満でもいいのか?
「マイクロ法人に対する売上高が80~90万円もないよ!」
という声も聞こえてきそうですが、もちろん月45,000円より低くすることもできます。
ただし、その場合は下げれば下げるほど「給与所得控除(55万円)」で税金がかからないメリットが失われていきます。
翌年に繰り越せるわけではないので、その年に使わなければそこまでです。
最低ラインは月12,000円
また、役員報酬をあまりに下げすぎると社会保険自体に加入できなくなる場合があります。
少なくとも月0円にするわけにはいきません。
健康保険料と厚生年金保険料の自己負担分が合計月11,000円弱なので、最低でも月12,000円(年144,000円)は必要でしょう。
ちなみに配偶者を社会保険の扶養に入れたい場合は
- 自分(被保険者)の年間収入の1/2未満
という条件もあります。
そのため、役員報酬の下げすぎはNGです。
最後に
今回はマイクロ法人の役員報酬について紹介しました。
いわゆる「マイクロ法人スキーム」は、給与を利用して税金と社会保険料の最低ラインを狙う方法です。
制度としてはかなり歪(ゆが)んでいるので
「いつかは見直される可能性は高い」
と考えます。
現時点では違法ではありませんが、異常な方法です(税金の世界でいうところの「租税回避」)。
ただ、会社員の「副業」も同じ仕組みで社会保険料がかかっていません。
どこまで規制するのか気になるところです。
関連>>【会社員必見】社会保険料がかからない収入3選|副業・株式投資・不動産投資
実行する場合は、専門家(主に税理士)と相談しながら慎重に行いましょう。
そして、いつかこの方法が使えなくなったときにどうするかまで含めて相談することをおすすめします。
関連>>マイクロ法人を作っても節税にも社会保険料の節約にもならない人3選
<本の紹介>