今回は、ひとり社長の社会保険料を「少し」節約する方法です。
ひとり社長は、会社員と違って「自分」で役員報酬を決めます。
そのときにこの方法を知っておくと、少し役員報酬を変えるだけで保険料が減る場合があります。
その方法は、保険料を決める要素になる「標準報酬月額」の決まり方を利用したものです。
社会保険料はどう決まるのか?
ひとり社長の役員報酬に対する健康保険料※と厚生年金保険料は、次の表で決まります。
※協会けんぽ。40歳以上の人は介護保険料を含みます。

この表は左から次のように分かれています。
- 等級,標準報酬月額
- 報酬月額
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
さらに保険料は次の2つに分かれています。
- 全額:会社負担+自己負担
- 折半額:自己負担

例えば
報酬月額が「93,000円以上101,000円未満」なら
標準報酬月額は「98,000円」
になります。
役員報酬で「月10万円」(実際は4~6月支給の平均)なら、この範囲内です。
ひとり社長なので「会社負担分」も実質自分が負担していると考えて表の「全額」の金額を拾うと
- 健康保険料:月9,613円
- 厚生年金保険料:月17,934円
- 合計:月27,547円
になります(東京都/令和4年度/介護保険料なし)。
この標準月額が「○○円以上△△円未満」の範囲内なら、標準報酬月額=保険料は同じという仕組みを利用します。
標準報酬月額が変わる上限ギリギリに設定
<前提>
- 東京都/令和4年度
- 40歳未満(介護保険料なし)
(1) 月給310,000円

310,000円は「310,000円以上330,000円未満」の範囲内のため、標準報酬月額は「320,000円」になります。
<会社負担を含む社会保険料>
- 健康保険料:月31,392円
- 厚生年金保険料:月58,560円
- 合計:月89,952円
- 年1,079,424円
(2) 月給309,999円

次に、「310,000円」から1円減らして「309,999円」にするとどうなるでしょうか?
309,999円は「290,000円以上310,000円未満」の範囲内のため、1つ下がって標準報酬月額は「300,000円」になります。
つまり、標準報酬月額の上限ギリギリに設定するわけです。
※309,999円は「いかにも」な金額なので、丸い数字にした方が自然かもしれませんが。
<会社負担を含む社会保険料>
- 健康保険料:月29,430円
- 厚生年金保険料:月54,900円
- 合計:月84,330円
- 年1,011,960円
比較
- 月給310,000円→年1,079,424円
- 月給309,999円→年1,011,960円
- 差額:▲67,464円
標準報酬月額の決まり方を利用し、たった月1円(年12円)変えるだけで、7万円弱、手取りが増えます。
極端に減るわけではありませんが、社会保険料を減らす効果はあります。
※正確には社会保険料が減った分だけ会社は経費が減り、個人も所得控除(社会保険料控除)ができる部分が減るので、この7~8割程度の得になります。
この方法のデメリットは?
健康保険
健康保険は民間の医療保険と同じ「掛け捨て保険」ですが、支払った保険料と給付内容(例:原則3割負担)が比例していません。
民間の医療保険なら支払う保険料が減ると給付内容も少なくなりますが、健康保険は影響しません。
※出産手当金・傷病手当金が減りますが、ひとり社長の場合は休んでも役員報酬を受け取ることが多いので、あまり影響はないと考えます。
厚生年金保険
一方、厚生年金保険は保険料が減る分だけ「自己負担分が減る」ので、将来もらう年金も少し減ります。

※厚生年金保険料の「会社負担分」は「年金に影響を与えない(掛け捨て)」というスタンスです。
・・・ただ、「少し」なので誤差の範囲とも言えます。
気になる人は、節約できた部分をインデックス投資など長期運用に回して備えることも考えられます。
税金
極端に役員報酬が変わるわけではないので、税金面も特に影響はありません。
この方法の見直しの可能性は?
この方法は、標準報酬月額の決まり方という「歪み」を利用したものです。
ただ、歪みといっても
- 極端に社会保険料が減るわけではない
- この表は広く一般的に普及していて変えるデメリットの方が大きい
ということで、見直しの可能性はほぼないと予想します。
<本の紹介>