「マイクロ法人を作ると税金や社会保険が節約できるらしい」
という知識がYouTubeやSNSでひとり歩きをしているのでしょうか。
最近、気になることが起こっています。
それは
「マイクロ法人を作っても節税にも社会保険料の節約にもならない人まで、マイクロ法人を作ろうとする」
ことです。
専門家に聞けば
「節税にも節約にもなりませんね」
「むしろ維持コストの方がかかりますね」
と言われて終わりです。
しかし中には専門家に相談せず、自分で会社を設立し
「どうもおかしい」
と思ってようやく相談して気づくパターンもあったりします(残念…)。
そういう人が1人でも減ればいいなと思っているので、今回はまず
マイクロ法人が有効なのは誰か?
について触れてから
マイクロ法人を作っても節税にも社会保険料の節約にもならない人3選
をご紹介します。
結論から言えば
「水を節約したくて蛇口をひねりたいのは分かるけど、そもそもたくさん水が出てる?」
というお話です。
マイクロ法人が有効なのは誰か?
マイクロ法人が効果的なのは
- 高収入フリーランス(IT、クリエイター、コンサルタントなど)
- 高収入の士業(税理士、社労士、弁護士など)
といった「高収入」の人です。
大きな設備投資もいらなければ、商品を仕入れて在庫を抱えるわけでもありません。
基本的に自分が動けば売上になって全然経費もかからないので利益が出ます。
そうすると、気になるのが税金や国民健康保険料の大きな負担です。
特に国民健康保険料を削減する目的で、個人事業とマイクロ法人の二刀流が広がっています。
マイクロ法人を作っても節税にも社会保険料の節約にもならない人3選
では、ここからが本題です。
マイクロ法人を作ってもあまり意味がないのは次のケースです。
- 低収入フリーランス
- 事業が1つしかない高収入フリーランス
- 会社員の副業
順番に見ていきましょう。
1.低収入フリーランス
「いくらなら高収入なのか? 低収入なのか?」
について目安はこの記事では書きませんが、マイクロ法人は「高収入」なフリーランスほど効果が高く、逆に低収入だと効果は薄いです。
そして法人を運営するためのコストが常にかかります
- 赤字でも払わないといけない法人住民税均等割:7万円前後
- 会社の決算をするための税理士への報酬(顧問料・決算料):10~20万円くらい
- 会計ソフトの利用料:2~4万円くらい
- 合計:20~30万円前後?
そうすると
- 税金や国民健康保険料で節約できる金額
- 運営コスト
を比較して、運営コストが高ければ「全然意味ないじゃん!」となってしまいます。
というわけで
「マイクロ法人を作る前にもっと稼ぎましょう」
というのが、何とも面白くないアドバイスになります。
2.事業が1つしかない高収入フリーランス
「あれ? 高収入なのにどういうこと?」
と思われたかもしれませんが、「事業が1つしかない」がポイントです。
「法人成り」と「マイクロ法人」の違いは次の点です。
- 法人成り:個人事業主がやっていた事業を「全部」法人に移す
- マイクロ法人:個人事業主のメインの事業は個人でやって、サブの事業を法人でやる
つまり、マイクロ法人は「2つ目の事業」が必要です。
高収入フリーランスだとしても、1つの事業だけで高収入ということになると、その事業を2つに分けることができません。
意外と「2つ目の事業」がなくて困っている人が多いです。
マイクロ法人について相談する人も
「今やってる事業を2つに分けられますか?」
という相談をかなり多く見かけます。
ムリヤリ1つの事業を2つに分けると、それは個人と会社を利用した租税回避行為、あるいは脱税になるので、専門家に相談しても
「それはちょっとムリですね」
と言われることも多いでしょう(いわゆる「実質所得者課税の原則」)。
所得税基本通達12-2(事業から生ずる収益を享受する者の判定)
出典:国税庁法令解釈通達
事業から生ずる収益を享受する者がだれであるかは、その事業を経営していると認められる者(略)がだれであるかにより判定するものとする。
・・・というわけで
マイクロ法人を作る前に「2つ目の事業」を育てましょう
というのが次のアドバイスです。
また、この点について税理士さんが詳しく解説している記事もあるので、一度読むことをおすすめします。
なお、事業という選択肢のほかに
- 会社が高配当株式を保有して「配当金」を得る
- 会社が不動産投資をして「家賃収入・地代」を得る
という方法もあります。
いわゆる「資産所得」の場合は
「誰の持ち物か?」
が重要です。
所得税基本通達12-1(資産から生ずる収益を享受する者の判定)
出典:国税庁法令解釈通達
法第12条の適用上、資産から生ずる収益を享受する者がだれであるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者がだれであるかにより判定すべきであるが、それが明らかでない場合には、その資産の名義者が真実の権利者であるものと推定する。
例えば
- 株式投資:法人口座で運用→会社の収入
- 不動産投資:会社の名前で登記→会社の収入
となるので、よほどの事情がない限り、「資産を持っている会社」の収入として認識されることでしょう。
「事業からの収入」と「資産からの収入」は考え方が違うので、事前に専門家に確認して実行することをおすすめします(丸投げ)。
3.会社員の副業
最後によくあるのが会社員の副業です。
会社員の場合、会社が社会保険に加入していれば、「健康保険」になるので、そもそも国民健康保険ではありません。
そうすると既に副業部分は社会保険料が節約できているので、マイクロ法人を作っても意味がありません。

詳しくは次の記事で解説しています。
ちなみに会社で健康保険に加入していなくて「国民健康保険」なら、マイクロ法人は活用できます(法人は原則加入というツッコミはさておき)。
一方、税金の方はかなり副業で稼いでいれば、運営コストを超えてメリットがある場合もありますが、年数十万円とかの利益ならまずは稼ぎましょう(本日2回目)。
最後に
まとめると次のようになります。
マイクロ法人が有効な人
- 2つ以上の事業をやっている高収入フリーランス
- 会社で株式投資や不動産投資ができる資金を持つ高収入フリーランス
マイクロ法人を作ってもあまり意味がない人
- 低収入フリーランス→まずは稼ぐ
- 事業が1つしかない高収入フリーランス→2つ目の事業を育てる
- 会社員の副業→社会保険料は既に節約済み
他にも該当するケースがあったら追加していきますが、今のところ見ている範囲ではこのパターンではないかと考えます。
<本の紹介>