貸借対照表とは、ざっくり言えば会社の「財産」と「借金」が書かれた表です。

しかし今回は、貸借対照表にのらない「見えない資産」の話です。

貸借対照表にはすべての資産がのらない。
私は大学時代に簿記と出会ってから、ずっと簿記を使った仕事をしています。
個人事業主から上場企業まで、いろんな決算書を見てきました。
その中で思うのは
貸借対照表にはすべての資産がのらない
ということです。
例1)社長
特に中小企業の場合、会社の大きさは「社長」次第です。
しかし貸借対照表には、最も重要な「社長」という資産がのっていません。
損益計算書に社長に対する役員報酬が見えるくらいです。
例2)顧客リスト
その昔、江戸時代の商人は、火事が起きたときに真っ先に「顧客台帳」を井戸に投げ込んだと言われます。
すべての資産を失ったとしても、顧客台帳があればまた商売を復活させられると考えたからです。
しかし当時も今も、「顧客台帳(顧客リスト)」という資産がのることはありません。
他にも
- 信用、ブランド
- 人脈、人望
- 知識、情報
- 経験
は、貸借対照表にはあらわれてきません。
特許権や商標権といった形でごく一部のものは貸借対照表にのりますが、それ以外はのせようがありません。
なにしろ客観的な金額を決めようがないからです。
- 見える資産:数値化できるもの
- 見えない資産:数値化できないもの
金額がわからないものは簿記で扱えません。
簿記の勉強を少しでもした方なら「そんなの当たり前だろう」と思うかもしれません。
しかし実際に会社を経営すると、これらの見えない資産こそが、会社の利益を生む源泉だったりします。
星の王子さまが言うように、
What is essential is invisible to the eye.
本当に大切なものは、目に見えない。
のです。
見えない資産が見える例外
見えない資産が貸借対照表でも見えるようになるのが、M&A(企業買収)の場面です。
例えば
- 貸借対照表を見たときの価値:10億円
- 買収金額:12億円
- 差額:2億円
だとします。
この差額2億円こそ、見えない資産の金額です。
買収する相手企業には、顧客リスト、ブランド、商品開発力、ノウハウなど、貸借対照表にのっていない資産があります。
これを「のれん」として、買収金額に上乗せして払います。
「のれん(暖簾)分け」の「のれん」です。
M&Aという買収の場面では客観的な金額を決めるので、本来なら見えない資産が貸借対照表にのります。
・・・まあ「全部まとめていくら」なので、個々の値段はハッキリしませんが。
見える資産だけがあれば幸せか?
さて今回の記事は当初
貸借対照表にのらない「見えない資産」を増やそう。
という記事タイトルでした。
・・・そして記事を締めようと考えたときに、ふと思い出しました。
親から億単位の財産を相続してもう働く必要もないのに、何か満たされないという方の話です。
「カネはたくさんある。でも、自分が持っているのはそれだけだ」
「そんなことないですよ」
と返していたのですが、当時の私は相手が何を言っているのか、まったく理解できていませんでした。
後から考えると、見える資産は何億円もあったけど、見えない資産はあまりなかったのかもしれません。

見える資産と見えない資産の両方を増やそう。
顧客リスト、ブランド、商品開発力、ノウハウといった資産は、 会社の利益を生む源泉です。
一方、個人の幸福を生む源泉としての「見えない資産」があります。
人生100年時代について書かれた『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』では、この見えない資産(無形資産)を3つに分類しています。
- 生産性資産:スキルや知識、仕事につながる人間関係・人脈、評判など
- 活力資産:肉体的・精神的健康や、友人や家族との良好な関係など
- 変身資産:変化に応じて自分を変えていく意思と能力
例えば、おカネはたくさん持っているけど
健康状態が良くない
友人や家族と良好な関係が築けていない
としたら、どうでしょうか。
現預金、建物、株式といった見える資産を増やすことももちろん大事です。
それと同じくらい、いや、それ以上にこれからの時代は、貸借対照表にのらない見えない資産を
会社は利益の源泉として
個人は幸福の源泉として
増やしていくことが大事だと私は考えます。