私は経営コンサルタントもやっていますが、その仕事の1つは、中小企業の「経営計画(特に売上計画)」を考えることです。
中小企業の場合、重要なのは売上です。
1に売上、2に売上。
3、4も売上、5も売上です。
売上がなければ経費も払えないし、税金も払えないし、借金も返済できません。
ヒアリングしながら経営計画を一緒に作ります。
しかしどんどん売上が増えて利益も増えていく、右肩上がりの計画になりがちです。
もちろん、夢のような右肩上がりの計画も大事です。
ただ、このブログの想定読者は、ひとりで会社をやっているひとり社長です。
どんどん事業を拡大して、大きな事務所を借りて、たくさんの従業員を雇いたい方は、このブログの想定読者ではありません。
ひとりで会社をやっているだけなので、自分と家族が生活できれば十分です。
まず最初に作るべきは、売上が減っても、生き残るための計画です。
計画というと難しくなるので、
最低ラインの売上がいくらなのか?
を決めましょう。
※今回は説明を簡単にするために、会社で全部の事業をやっているパターンにしています。ひとり社長兼個人事業主の場合は、アレンジが必要です。
最低ラインの売上の決め方
最低ラインの売上を決めるために、最低ラインの生活費から逆算します。
1) 最低ラインの生活費
まず自分と家族が最低いくらあれば生活できるか、最低ラインの生活費を出します。
わからない場合は1~3か月くらい家計簿をつけてみてもいいでしょう。
固定費を個別に調べて、食費・日用品費などの変動費はざっくり月10万円とかでもいいです。
いきなり完璧なものにする必要はありません。
とりあえず年間生活費を出して、後で修正しましょう。
2) 最低ラインの役員報酬
次に生活費から逆算して役員報酬を決めます。
役員報酬(総額)の2割相当は、税金・社会保険料で天引きします。
残りの8割相当が手取りです。
<役員報酬の逆算>
- 役員報酬×0.8=手取り
- 最低ラインの役員報酬=手取り÷0.8
手取り=生活費とすると、生活費を0.8で割り戻すことで最低ラインの役員報酬が出ます。
(例)
- 生活費→役員報酬
- 200万円→250万円
- 300万円→375万円
- 400万円→500万円
- 500万円→625万円
これを見て「ちょっと無理かも」と思ったら、その時点で生活費に削減できる部分がないかを考えましょう。
- 事業が上手くいかなかったら引越しして家賃を2万円下げる
- 固定費のうち○○を解約する
- 食費・日用品費は月1万円節約する
といった形で、最低限必要なものだけ残します。
もちろん、今すぐ減らす必要はありません。
今後売上が下がったときに、減らせる余地があることを知ることが重要です。
3) 最低ラインの売上
役員報酬から逆算して売上を決めます。
役員報酬を払うときは、会社負担分の社会保険料も支払う必要があり、役員報酬の15%相当です。
つまり、売上には最低、役員報酬×115%が人件費として必要です。
ほかにも人件費以外にかかる経費や、赤字会社でもかかる税金(均等割)があります。
<売上の逆算>
- 売上-役員報酬×115%-その他の経費-均等割7万円=0円
- 最低ラインの売上=役員報酬×115%+その他の経費+均等割7万円
(例)役員報酬360万円(月30万円)、その他の経費50万円
- 売上=役員報酬360万円×115%+均等割7万円+その他の経費50万円
- 売上=人件費414万円+均等割7万円+その他の経費50万円
- 最低ラインの売上=471万円
実際には均等割7万円は税金計算上、経費にならないとか、細かく言えばいろいろあります。
余裕を見て500万円くらいの売上だと思っておくとよいでしょう。
月40万円強の売上が必要です。
これを見て「ちょっと無理かも」と思ったら、再度、生活費に削減できる部分がないかを考えましょう。
あるいはその他の経費を削減できないか考えましょう。
実際に数字で見るのが大事です。
手順のまとめ
- 生活費を出す
- 役員報酬を決める
- 売上を決める
参考:生活費から人件費を出す場合
最低ラインの役員報酬=手取り÷0.8
社会保険料の会社負担分は役員報酬×15%相当です。
ということは、
人件費=役員報酬×115%
=(手取り÷0.8)×115%
=手取り×1.4375
手取りの範囲で生活費をまかなうとすると
→生活費×1.5
ざっくり生活費を1.5倍すると人件費になります。
最低ラインを知ることの重要性
世の中の経営計画だと最初に売上を決めるものが多いです。
しかし、小さな会社では自分と家族が生活できる最低ラインがまず大事です。
夢のような売上計画は、後で自由に考えましょう。
最低ラインの売上を知っていれば、どこまで売上が減っても大丈夫なのかがわかります。
逆に最低ラインの売上を知らないと、いざ売上が下がったときに、人間、焦りで頭の中がいっぱいになります。
なんとなくぼやっとしたままだとお金の不安を抱えたままです。
幽霊の正体見たり枯れ尾花。
本当に怖いのは、見ないで放置していることです。
具体的な数字にして、具体的な行動に移していきましょう。
自分で難しいときはプロに相談を
なお、今回は1年で必要な最低ラインの売上を出したにすぎません。
実際には、今後のライフプランによって必要な生活費は変動します。
例えば年金をもらえる年齢までの毎年のシミュレーションまでできると、もっといろいろ見えてきます。
そこまでいくと自分で考えるも難しくなってくるので、税理士さんと一緒に考えるのもよいでしょう。
FP(ファイナンシャルプランナー)の資格を持つ税理士さんなら、ライフプランと一緒に必要な売上をトータルで計算してくれる場合もあります。
専門家を活用しましょう。