今回は各省庁の「令和5年度税制改正要望」の中から、投資家注目の
- NISA
- デリバティブ取引
- iDeCo
- 暗号資産(仮想通貨)
に関する要望をピックアップして紹介します。
税制改正要望とは?
そもそも「税制改正要望」とは、各省庁が「こういうことをしたい」という要望です。
8月末までに各省庁から財務省(国税)と総務省(地方税)に提出されます。

要望であって、そのまま実現するとは限りません。
しかし、政府の政策と一致しているようなものは、事前にネゴしているので来年度の税制改正で変わる可能性があります。
順番に見ていきましょう。
資産所得倍増プラン
令和5年度税制改正の目玉(1番の注目)になるのが、「資産所得倍増プラン」に合わせた個人投資家向けの税制改正です。
資産所得倍増プランは今年6月の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」の中で既に登場しています。
ざっくり言えば
- 個人の金融資産2,000兆円のうち、その半分以上が現預金
- 家計が豊かになるには「貯蓄から投資に」シフトが必要
- そのためにNISAの抜本的に拡充をする
- 現預金の多くを持つ高齢者が70歳まで働く時代になっているのでiDeCo制度の改革やその子ども世代が資産形成しやすい環境にする
これを受けて金融庁の要望では、次の4つが挙げられています。
- NISAの抜本的拡充
- 資産形成促進に関する費用に係る法人税の税額控除の導入
- 教育資金一括贈与制度の拡充等
- 金融所得課税の一体化
全体像はこんな感じです。

公式>>金融庁「令和5年度税制改正要望」
iDeCoは厚生労働省が要望しているのでその次で紹介します。
NISAをもっともっと使いやすく!
1つ目、NISAについては、簡素で分かりやすく、使い勝手のよい制度を目指して次の点が要望されています。
- 制度の恒久化
- 非課税保有期間の無期限化
- 年間投資枠を拡大し、弾力的な積立を可能に
- 非課税限度額の拡大(簿価残高に限度額を設定)
- つみたてNISAを基本としつつ、一般NISAの機能を引き継ぐ「成長投資枠(仮)」を導入
- つみたてNISAの対象年齢を未成年者まで拡大
- ジュニアNISAは、予定通り2023年末で新規買付終了
いずれも「結構攻めてるな」という感じで、全部通ったらすごいことになりますが、たぶん無理でしょう。
金融庁としては最初から全部通すつもりはなくて、この中から部分的にでも通ればOKと言うスタンスではないかと考えます。
このうち「成長投資枠(仮)」については、非課税限度額の内枠として
- 既に積み上げた資産(預貯金)によるキャッチアップ投資
- 企業の成長を応援するため、上場株式や一定の商品性を持った株式投信等
への投資を可能とする、とあります。
イメージは次のとおりです。

ジュニアNISAと一般NISAをつみたてNISAに吸収させて、将来的には
「つみたてNISA+α」
に一本化したい、という雰囲気を感じるのは私だけでしょうか。
従業員の金融教育で法人税減税
2つ目、会社で従業員向けに金融経済教育をした場合に、法人税の一部を減税する制度を金融庁は要望しています(資産形成促進に関する費用に係る法人税の税額控除の導入)。

高校生の金融教育は「学校」で、大人の金融教育は「会社」で、ということでしょうか。
NISAという「制度」だけ拡充しても、使う人が「投資したい」と思わなかったらお金は動かないよね、ということで、この要望は実現しそうな気がします。
ただ、どんな金融教育を誰がするならOKなのかは注目ポイントですね。
教育資金の一括贈与
3つ目はシニア世代から若い世代への資産の移転の1つ、「教育資金の一括贈与の贈与税の非課税制度」です。
この制度は「入学資金・学費など教育のために使う」のが前提のため、
- 投資商品での運用損失
- 教育関連団体等への寄附
は、教育資金以外の支払分になり、贈与税が課税されています。

金融庁の要望では、これらについても非課税になるよう要望しています。
教育資金の一括贈与は「金持ち優遇」につながる面もあり、この2つを含めるのは個人的には疑問がありますが、さてどうなることやらです。
デリバティブ取引・預貯金も損益通算の対象に
4つ目は、過去、何度も金融庁から要望が出て全然実現しない
- デリバティブ取引
- 預貯金
と上場株式などとの損益通算です。

特にデリバティブ取引については税金逃れ(租税回避行為)をいかに潰すか次第ですが、今年はNISAを優先して後回しになる気がします(今回もたぶん厳しい)。
iDeCoも資産所得倍増プランに基づいて改正
さて今度はiDeCoです。
厚生労働省は、iDeCoについて「資産所得倍増プラン」に基づいて何らかの改正をすることを要望しています。
つまり、はっきり要望に書いてません。
公式>>厚労省「令和5年度税制改正要望」
「70歳まで働くこと」を考慮した議論をしていたので、iDeCoの加入可能年齢を「70歳未満」までに引き上げて加入者を増やすつもりでしょうか。

また、厚労省は「特別法人税」の廃止も要望しています。
こちらも何度も要望して実現していないので、今回はどうでしょうか(たぶん厳しい)。

暗号資産(仮想通貨)は個人に関する要望なし
さて最後は暗号資産です。
Web3関連のスタートアップ企業など「暗号資産を発行する法人」がもっている「暗号資産」について、期末の時価評価の対象外にする改正が金融庁と経済産業省から要望されています。
個人的には今まで時価評価していたことがクレイジーと考えるので、これは実現可能性が高いと予想します。

今回の金融庁・経済産業省の要望では「これだけ」です。
「個人」の雑所得・総合課税については何も要望が出ていません。
FXのような分離課税・一律20%を希望している人は多いと思いますが、このままだと令和5年度税制改正では何もなさそうです。
最後に
令和5年度税制改正要望の中から、投資家に関係あるものをピックアップしました。
最初に書いたようにあくまで「こうしたい」と各省庁が言っているだけで、確定ではありません。
実質決まるのは12月の税制改正大綱です。
注目していきましょう。

関連>>【税金のルールはどうやって決まる?】知っておきたい毎年の税制改正の流れ