「【注意】個人事業主でも社会保険に加入できるオンラインサロンの仕組みと問題点」という記事を書きました。
オンラインサロンに登録すると給料が発生する仕事が与えられて、社会保険に加入できるというものでした。
今回は別のパターンです。
「とある協会の理事になると役員報酬が発生して、社会保険に加入できる」
というものがあったので、その仕組みと問題点をご紹介します。
結論から言えば、私はおすすめしません。
※おすすめしないのでリンクも貼りません。
社会保険削減の仕組み
対象者
この方法は、個人事業主・フリーランスといった、会社に属さず国民年金保険料・国民健康保険料を払っている人が対象です。

仕組み
とある協会(一般社団法人)の役員(理事)になって、「役員報酬をもらう人」になって社会保険に加入すると、次のように
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
に変わります。
特に国民健康保険料の負担が大きいわけですが、健康保険に加入なら「役員報酬」だけで計算します。

さらに
- 配偶者に対する国民年金保険料・国民健康保険料
- 子どもに対する国民健康保険料
も扶養の範囲ならゼロになります。
「将来もらえる年金が減るんじゃないの?」
という疑問があるかもしれません。
むしろ厚生年金保険になることで「老齢厚生年金」が上乗せされるので、国民年金だけのときよりもらえる年金が少し増えます。
関連>>【マイクロ法人】1番低い厚生年金保険料にすると国民年金より安いのに年金が多くもらえる件
参考:マイクロ法人
ちなみに自分でマイクロ法人を作って役員報酬をもらう場合と全く同じ状態になります。

関連>>【マイクロ法人】役員報酬はいくら?月45,000円/年54万円が税金・社会保険料を考えると最適解になる理由
なお、会社員の場合は、既に自分の会社で社会保険に加入して厚生年金保険料と健康保険料を払うので、今回の方法もマイクロ法人による方法も使えません。
関連>>マイクロ法人を作っても節税にも社会保険料の節約にもならない人3選
社会保険加入協会の流れ
では、どのような流れになっているのか、サイトから得た情報をもとに書くと次のような感じです。
(1) 協会の理事になる
個人事業主Aさんは、ある一般社団法人Y協会に理事として加入します。
これにより、Aさんは「Y協会の役員」という身分を手に入れます。
一方、マイクロ法人を利用する場合は手間が多いです。
例)
- 会社で何の事業をするか考える(個人事業と別の事業が必要)
- 自分で会社を作る
- 会社を運営して決算・法人税の申告
(2) 簡単な仕事
Aさんは毎月1回、Y協会から「簡単な仕事」を与えられます。
これは理事としての実態を作るためです(偽装ともいう)。
仕事内容はそれぞれです。
例えば協会に関するSNS投稿をテンプレートに基づいてするとか、ふざけた内容になっています。
これで社会保険の加入に必要な勤務の条件を満たそうとします。
一方、マイクロ法人を利用する場合は、個人事業とは別の事業を会社で行う必要があります。
(3) 役員報酬の支払い
仕事に対してY協会からAさんに毎月給料が支払われます。
AさんはY協会の役員になることで社会保険に加入できるので、厚生年金保険料と健康保険料が給料から天引きされます。
会社負担分も含めてY協会が社会保険料を払ってくれます。
ただ、会社負担分も自分で協会に払う「毎月の加盟金」から出ているので、実質、自己負担です。
一方、マイクロ法人を利用する場合は、自分に対して会社から役員報酬を支払います。
厚生年金保険料と健康保険料が役員報酬から天引きされます。
合わせて会社負担分も会社が払いますが、会社=自分なので、実質、自己負担です。
社会保険加入協会の問題点
「マイクロ法人を作るより簡単じゃん!」
と思った人もいるかもしれませんが、この方法は次の2つの問題があると考えます。
1.役員としての実態がない
この点について、社会保険のプロである社会保険労務士の先生は次のように問題点を指摘しています。
この社会保険料削減ビジネスは、明らかに脱法行為であると言えます。
社会保険料削減会社で社会保険の被保険者資格を取得したとしても、実態としては、その会社の社員になったわけではありません。
国民健康保険料を削減する目的で「社員になったことにした」「勤務したことにした」だけでは、本来の社会保険の加入者資格を得られません。
一般的に考えて通常の判断ができる人であれば、ここまでお伝えしたことが「脱法行為」「黒に近いグレー」であることがわかるでしょう。
出典:社労士法人GOAL「脱法行為に注意┃個人事業でも社会保険に加入できる?」
これは「従業員」になる場合を想定していますが、今回の「役員」になる場合も同様です。
社会保険料を削減するスキームには
- 違法ではないか異常
- 違法の可能性あり
の2種類があると考えます。

協会の仕事内容も
「本当に役員として仕事してるの?」
と言えるレベルです。
これでは「役員になったと装っている(偽装役員)」と指摘される可能性は高いと考えます。
2.加盟金の負担
2つ目の問題点が「協会の加盟金の負担」です。
運営する協会もボランティアではないので、どこかで利益を出す必要があります。
それがこの「加盟金」です。
<例:毎月の収支>
- 加盟金:▲5万円(仮)
- 役員報酬:+2.2万円
- 社会保険料の天引き:▲1.1万円
- 収支:▲3.9万円(年46.8万円)
社会保険料の自己負担は1.1万円まで減りますが、実質負担は月3.9万円です。
現在、国民年金保険料と国民健康保険料で月3.9万円を超えて払っている場合に削減メリットが発生します。
協会側から見てみると次のようになります。
- 加盟金:+5万円(仮)
- 役員報酬:▲2.2万円
- 社会保険料の天引き:+1.1万円
- 社会保険料の支払い:▲2.2万円※
- 収支:+1.7万円(年20.4万円)
※社会保険料の会社負担分1.1万円を含みます。
・・・あれ、リスク負ってる割には思ったより利益が出ないビジネスだな。最初に手続きをしてしまえば、あとはほぼ何もしなくても固定収入が入るからいいと思ってるのかな。
収入の原資が「社会保険料の削減部分」なので、国がこのまま放置するとは思えないところです。
最後に
もし、この方法が
「役員を装った社会保険料逃れ(違法)」
だと指摘されても、運営する協会と運命共同体です。
しかも従業員ではなく「役員」なので、協会が別のところ違法なことをすると
「あなたは理事としてちゃんと監視してませんでしたね(善管注意義務違反)」
と損害賠償の対象になる可能性があります。
・・・まあ、実際にそんなことが起こるのかどうかはさておき
【赤の他人】が裏で何やってるかわからないところに入る覚悟がありますか?
ということですね。
ちなみにこういう団体は、昔から名前を変えて、登場しては消えてを繰り返しています。
「なんかよくわからないけど、社会保険料が減るからいいか」
と手を出すことは、個人的にはおすすめしません。
関連>>【注意】個人事業主でも社会保険に加入できるオンラインサロンの仕組みと問題点
<本の紹介>