このブログでは社会保険料を節約・削減・回避する方法(スキーム)について説明してきましたが、だんだん増えてきたので整理します。
中には「違法じゃないか?」と思うものもあるので、注意喚起の意味をこめてまとめます。
次の3つに分類しますが、あくまで個人的な温度感で分類しているので、あらかじめご了承ください。
- 【節約】合法的なもの
- 【削減】違法ではないけど異常なもの
- 【回避】違法の可能性があるもの
【節約】合法的なもの
会社員の副業
会社員が行う副業(給料になるもの以外)には、社会保険料がかかりません。

これは社会保険料を計算する仕組みが「給料」だけになっているからです。
「そんなの当たり前じゃん!」
と思う人もいるかもしれませんね。
でも、例えば年収400万円で副業の売上1,000万円だとしても副業の部分には社会保険料がかかりません。
※これは「違法ではないが異常」かも。

他にも
- 会社員が受け取る配当金・株式売却益
- 会社員が受け取る不動産賃貸収入
も社会保険料がかかりません。
関連>>【会社員必見】社会保険料がかからない収入3選|副業・株式投資・不動産投資
国保加入者の配当金・株式売却益
国民健康保険や後期高齢者医療保険の加入者も、配当金や株式売却益を「申告不要」にすれば対象外です。
これについては令和4年度税制改正の「金融所得の課税方式の所得税と住民税の一致の強制」で少しルール変更がありました(⇒両方申告不要にすればまだ使えますが)。

2022年5月には「後期高齢者の保険料、金融所得も勘案検討」というニュースも流れ、今後どうなるか注目したいところです。
130万円の壁の範囲内
厚生年金保険は、世帯年収が同じなら保険料の負担も年金の給付も同じようになっています。
<世帯年収800万円>
- 年収800万円の夫と専業主婦(収入0円)の妻
- 世帯年収800万円の共働き夫婦
この場合、負担・給付はほぼ同じです(専業主夫の場合も同様)。
「専業主婦は保険料を払っていないのに年金がもらえてけしからん」
という人がいますが、世帯単位で見ればそれは誤解です。
※このようになっているのは熟年離婚をしたときに専業主婦が無年金になるのを防ぐためです。
しかし、専業主婦ではなくいわゆる「130万円の壁」の範囲内でパート・アルバイト収入を得る場合は、その分だけ得をします。
<世帯年収800万円>
- 年収700万円の夫と年収100万円(扶養内)の妻
- 世帯年収800万円の共働き夫婦
の場合、前者の方が有利になります。
もし「けしからん」と言うなら、相手が違うということです。
ちなみに扶養については
- 本当に扶養内で働いているのか、扶養状況をどんどん厳しくする
- 「106万円の壁」を新しく作る
という対策が行われています。
106万円の壁の範囲内
130万円の壁はだいたい月30時間以上の人を想定していますが、さらに社会保険の適用を拡大するために出てきたのが「106万円の壁」です。
月20~30時間働く人も社会保険料を負担させようという動きです。
<イメージ>

出典:厚生労働省資料
2022年5月の全世代型社会保障構築本部の中間整理では、「勤労者皆保険(働いている人はみんな社会保険に加入)」の実現を打ち出しています。
最終的には規模要件が撤廃されて、従業員数50人以下の企業や個人事業主も対象になるかもしれません。
【削減】違法ではないが異常なもの
マイクロ法人スキーム(個人事業主との二刀流)
個人事業主・フリーランスの国民健康保険料の負担削減のため、別の事業を行うマイクロ法人を作り、役員報酬を払って社会保険に加入する方法です。

昔から税金や社会保険の専門家(税理士,社会保険労務士)も利用している方法ですが、近年、YouTubeで取り上げられて有名になりました。
これも違法ではありませんが異常です。
関連>>【マイクロ法人】税理士と会計法人|税理士報酬が不要というメリット
関連>>【マイクロ法人】1番低い厚生年金保険料にすると国民年金より安いのに年金が多くもらえる件
事前確定届出給与スキーム
健康保険料と厚生年金保険料の計算には、「上限」があって、その上限を超えるといくら払っても保険料が増えないことを利用したものです。
例えば年収1,800万円の社長(役員報酬月額150万円)が
- 役員報酬:月10万円
- 賞与(事前確定届出給与):1,680万円
にするようなケースです。
毎月150万円払うときに比べて社会保険料が削減できるので、儲かっている1人会社で見られる方法です。
これも違法ではありませんが異常です。
全社員原則テレワーク(企業主導型)
社会保険料の計算には「通勤手当」も入りますが、全社員をテレワーク(在宅勤務)にして通勤手当を「なし」にする方法です。
企業主導型で通勤手当にかかる社会保険料の「会社負担分」を削減できます。
出社した場合はその交通費がもらえますが、厚生労働省のQ&Aでは「業務として一時的に出社する場合は実費弁償」で「報酬等・賃金に該当しない」とされています。
つまり、従来「通勤手当」だったものが「ただの交通費」として、社会保険料も労働保険料もかからないわけですね。

・・・ただ、これを「全社員」でやるとなると、ちょっと異常です。
そもそも厚労省のQ&Aは「一時的な出社」を想定したものなので、実態によっては該当しないものも出てくるように考えます。
【回避】違法の可能性があるもの
2以上の給料をもらって片方回避
2つ以上の会社から給料や役員報酬をもらっているのに片方だけしか社会保険料を払っていないケースです。
金額にもよりますが、本来は「合算」して社会保険料を計算しないといけません。
すべてのパターンについて、下記の記事がかなり詳しく書いています。
参考>>社会保険労務士法人シグナル「社会保険二以上事業所勤務被保険者の基本的なこと」
偽装請負で回避(企業主導型)
会社の従業員(雇用契約)を「外注先(業務委託契約)」にして社会保険料の対象から外す方法です。
これも企業主導型で給料全体にかかる社会保険料の「会社負担分」を削減できます。
本当に独立した個人事業主としてやっているならともかく、従業員と実質が変わらない場合はアウトです(偽装請負)。
「偽装請負」とは・・・
書類上、形式的には請負(委託)契約ですが、実態としては労働者派遣であるものを言い、違法です。労働者の方から見ると・・・
出典:東京労働局
自分の使用者からではなく、発注者から直接、業務の指示や命令をされるといった場合「偽装請負」である可能性が高いと言えるでしょう。
この場合、あわせて消費税も逃れています(インボイス制度の開始でこの問題は解消します)。
偽装雇用・偽装役員で回避
個人事業主が
- ある会社に従業員として雇用されたが実態がない(偽装雇用)
- ある法人の役員に就任したが実態がない(偽装役員)
と偽装して社会保険に加入する方法です。
※偽装雇用と偽装役員は私が勝手に考えた言葉です。
例えば役員になると、役員報酬の分だけ社会保険料の対象になり、個人事業部分にかかる社会保険料を回避できます。

マイクロ法人スキームと同じように見えますが、こちらは「従業員」「役員」としての実態がない点に問題があります。
個人的には全くおすすめできません。
▼従業員(雇用)を偽装するパターン
関連>>【注意】個人事業主でも社会保険に加入できるオンラインサロンの仕組みと問題点
▼役員を偽装するパターン
関連>>【注意】個人事業主でも理事(役員)になって社会保険に加入できる協会の仕組みと問題点
最後に
とりあえず思いつくものを並べましたが、他にもあれば追加します。
社会保険料削減/回避スキームは
- 社労士自身がホームページでうたっているもの
- 社会保険の専門家ではない税理士・行政書士・コンサルタントがすすめているもの
もあり、ネット上でもいろいろ見つかります。
中には明らかにブラックなものもあるので
「社会保険料が削減される」
という点だけ見て、おかしなことをしないようにご注意ください。
何かあったときに責任をとるのは「自分」です。